IT技術は、情報通信はもとより自動車、航空機の自動制御、ロボット、知能創生、認知工学、金融ビジネス、電子行政、学術情報リポジトリなどあらゆる社会インフラを支え、産業革命に比肩する影響を及ぼしたと言われています。しかし、五感に匹敵するマルチメディア処理、ロバストな制御を織り込んだヒューマンインタラクション、福祉、電脳病診の円滑な運用や信頼性の保証などの達成には程遠く、人類未来に不可欠な高度情報基盤の更なる整備が必要です。そのためのキラー技術の開発が、次世代型IT基盤技術開発センターの目的です。我々は、半導体デバイスレベルから、プロセッサ、情報処理システム、ネットワーク、インターネットまでオーバーオールに取り組んでいます。以下にその概要を紹介します。
【超高速省電力ユビキタスプロセッサの開発と実用化】
神のように遍く存在するという意味のラテン語のubiqueに由来し、「至る所にコンピュータが存在し、それらが自律的に連携して動作する情報環境」の意味で使われるユビキタスは諸刃の刃で、普遍性に起因する情報漏洩、普及に対する情報洪水、高度技術に浴せない情報弱者などが懸念されます。この対策として、我々はソフトに配慮したハードの開発研究を行っています。ダブルコアでインタープリータ型Java CPUのメディアパイプとSIMD型サイファーパイプを備えた独自のシングルチップユビキタスプロセッサHCgorillaを創出し、ナノテクノロジィの先駆けとなったCMOS技術でチップ化を行っています。図1に、HCgorillaの試作チップの動作検証の様子を示します。一方、豊富なアプリケーション機能と携帯性に必要なコンパクトさを両立するHCgorillaの命令セットの基に、Javaインターフェースと実行コードレベルの並列性抽出コンパイラからなる言語処理支援ソフトウェアを開発中です。HCgorilla搭載の携帯機器は既存の設備を介すことなくユーザの自己防衛意識を充たし、支援ソフトをサーバ側に置くことでユビキタス環境全体としてのコストパフォーマンスの向上をもたらします。

図1.HCgorillaチップの開発環境
【ネットワーク異常回避プロセッサの開発と実用化】
不正アクセスやコンピュータウイルス対策の常套手段であるIDSやIPSはNetwork-basedとHost-basedに分類されますが、それぞれに課題があります。我々はそれらの課題を分析し、従来のIDSとIPSの守備範囲を超えた高速低消費電力型高機能ホストベースネットワーク異常回避プロセッサを開発中です。機能レベルではDoS攻撃、ポートスキャン、ウィニィ対策などをカバーし、ゲートレベルでは順序回路のウェーブ化技術を独自に開発し、デバイスレベルではFPGAによるリコンフィギャラブル設計でインターネット環境のドラスティックな変化に柔軟かつ迅速な対応を可能としています。図2に示すような構成で、ネットワークカード形態での実用化を目指します。
図2.ネットワーク異常回避プロセッサのハードウェア構成
【多階層並列処理システムの構築と応用ソフトの開発研究】
これまでは、並列コンピュータと言えばスーパーコンピュータでしたが、現在では、ミクロからマクロに至るまでシステムの並列化がすすんでいます。例えば、ナノメーターレベルではマルチコア化が進み、地球規模ではグリッドコンピューティングによる並列分散処理が進んでいます。ところが、このようなシステムの処理能力を引き出す応用ソフトの開発は非常に遅れています。我々の目的は、近年、膨大な情報量と計算量を高速に処理する必要に迫られているバイオ分野において、多階層並列処理システムの処理能力を引き出す並列応用ソフトを開発することによって困難な問題を解決することです。図2に、この研究の成果の一例を示します。

図3.地球シミュレータによるヘモグロビンのシミュレーション
【ヒューマンコンピュータインタフェースの開拓】
人間の視覚をコンピュータ上に実現する研究の一環として、TVカメラの画像から周囲の状況を把握する研究を行っています。この研究から生み出される技術は、監視カメラの映像から異常事態を自動検知するセキュリティーシステム、渋滞や事故などを自動検知する交通流監視システム、車載カメラの映像から障害物や走行路を検出し自動車事故を未然に防ぐ車両安全システム、身振り・手振りでコンピュータを操作するヒューマンコンピュータインタフェース (HCI)など幅広い分野に応用できます。図4から図8に、この研究の成果の一例を示します。
図4.視界不良に強い画像監視技術 図5.重なり車両検出技術

図6.先行車検出技術 図7.路肩検出技術 図8.ジェスチャー認識技術
【次世代ネットワーク用半導体デバイスの開発と実用化】
次世代ネットワークのキーデバイスの開発設計と集積化、そのための製造プロセスの開発、及び実用化に取り組んでいます。ここでは特に、究極の半導体レーザともいわれている光通信用量子ドットレーザに向けた研究の一端を紹介します。量子ドットレーザは消費電力が少ない、周囲温度が変化しても特性が変わらないために無温調で使用できる、高速直接変調が可能で長距離伝送しても波形の劣化が少ない等、超高速の光データリンクに理想的な特性を有しています。また、量子ドットは高効率な単一光子発生が可能なことから盗聴が不可能な量子暗号通信用としても注目されています。これまでに独自の成長手法を用いることにより光通信波長帯で発光する、よく光る量子ドットが作成できており(図9)、共振器構造の導入により単一光子発生にも成功しています(図10、NTT物性基礎研との共同研究)。量子ドットの基礎物性の評価を進めながらより良好な特性を有する量子ドットの作成技術を確立するとともに、超高速光データリンク用半導体レーザの実現をめざします。

図9.量子ドットのAFM像 図10.量子ドットの発光特性
図11.単一光子発生実験用の共振器構造(写真:NTT物性基礎研提供)
教員 構成
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センター長 |
教授(併任):深瀬政秋
教授(兼任):斉藤 稔
教授(兼任):小野口一則
教授(兼任):岡本 浩
准教授(兼任):黒川 敦
准教授(兼任):種田晃人
准教授(総合情報処理センター兼任):佐藤友暁
准教授(兼任):中澤日出樹
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