フッ素系高分子ナノ粒子の調製

−洗剤を使用せず水洗いのみで油汚れを除去するコーティング膜の開発

 

(弘前大学理工学部物質理工学科 設計分子工学講座)澤田 英夫

 

1.緒言

1.1                 低分子フッ素化合物の特徴[1]

  フッ素化合物は通常のフッ素を含まない化合物には見られな数多くのユニークな性質,例えば油溶性の増加,ミミック効果,ブロック効果,熱的安定性,化学的安定性さらには低表面特性を示す。このフッ素のユニークな特性は,主にフッ素原子の独特な性質,すなわち立体的に水素についで小さな原子(ファンデルワールス半径 H : 1.2 ; F : 1.35 )であり,電気陰性度が最も高く,炭素との結合力(C-F : 116 kcal/mol) が水素やフッ素原子以外のハロゲン原子 (C-H : 99.5 kcal/mol; C-Cl : 78 kcal/mol)に比べ強く,炭素−フッ素結合の結合距離(C-F = 1.32)は炭素−塩素結合距離(C-Cl : 1.77)より短く、柔軟性がなく,分極率が低い等の性質に起因するためである。このようなフッ素の興味深い性質を巧みに活かすことにより,フッ素化合物は現在、歯磨き剤(モノフルオロリン酸ナトリウム:NaOP(=O)FONa),制ガン剤(例えば、5-フッ化ウラシル)から原子力(六フッ化ウラン:UF6)に至るまで我々の生活のありとあらゆる分野に使用されている。

1.2.高分子フッ素化合物の特徴[2]

  低分子フッ素化合物以外に、高分子フッ素化合物も我々の生活に深く密着した化合物である。高分子フッ素化合物の中で最も馴染み深い化合物としてポリ(テトラフルオロエチレン)[-(CF2CF2)n-: テフロンTR]を挙げることができる。この高分子化合物は,まさに炭素−フッ素結合の結合力の強さがうまく活かされ耐熱性,耐候性,耐化学薬品性,撥水・撥油性を示す材料として種々の分野で多用されている。対応するフッ素を含まないポリエチレン[-(CH2CH2)n-]においては,炭素鎖がジクザグ上に同一平面上に伸びた構造をとっているのに対し、テフロンTRにおいてはフッ素原子のファンデルワールス半径が水素原子よりもやや大きいため、ポリエチレンのようなジクザク構造をとれず、らせん状のコイル構造をとっており、炭素鎖の表面がフッ素原子によってびっしりと覆われた棒状の分子構造をしている。特に、ポリエチレンにおいては炭素鎖を水素原子が覆うことができないのに対して,テフロンTRにおいてはフッ素原子により炭素鎖を覆い隠すことができる。このような構造の違いもテフロンTRにおける優れた特性を導き出す要因ともなっている。

1.3 有機溶剤可溶型フッ素系高分子化合物[2]

  テフロンTRはこのように優れた高分子材料として注目されているものの、種々の溶剤に不溶であることからその使用が限られていた。特にこのテフロンTRの優れた特性を塗料分野へ応用することは極めて興味深く、実際このテフロンTRの特性が活かされた有機溶剤へ可溶なフッ素系高分子化合物が開発された。この有機溶剤へ可溶なフッ素系高分子化合物は以下に示すように、テトラフルオロエチレン(CF2=CF2)とビニルエーテル(CH2=CHOR)との交互共重合により得られる交互共重合体: 

 

                  [-[(CF2-CF2)-(CH2-CH(OR))n-]

であり、実際、ルミフロンTRとして製造販売されている。このフッ素系高分子化合物の特徴は、テフロンTRの溶解性の低さを有機溶剤に対して高い溶解性を示す炭化水素系ビニルエーテルユニットを導入させることによりフッ素系高分子化合物の溶解性が著しく高められた点にある。さらにテフロンの耐候性の高さを持続させるためにテトラフルオロエチレンとビニルエーテル類を交互共重合させることにより,炭化水素であるビニルエーテル類の耐候性の低さを両サイドに存在するテトラフルオロエチレンユニットが補強する点が特徴といえる。

1.4 水溶性を示すフッ素系高分子化合物の開発とその応用展開[2]

  1950年代、ロサンゼルスの光化学スモッグによる被害が深刻な社会問題になって以来、欧州でも酸性雨を中心とする大気汚染による森林、歴史的建造物への被害が報告されるようになっている。この酸性雨の原因の一つとして指摘されているのが揮発性有機化合物(VOC: volatile organic compound )であり、このVOCが大気中に放出され、窒素酸化物とともに太陽光の紫外線により強い酸化力を持った光化学オキシダントとなり、光化学スモッグの原因となるとともに酸性雨の原因になっている。従って、先に示したように、有機溶剤系の塗料においてはVOCが多く使われており、今後VOCの代替物の開発が急務とされている。このような観点から、溶剤として水を使用することは環境に優しい溶剤として極めて重要であり、水溶性を示すフッ素系化合物、特にフッ素系高分子化合物の開発さらには新たな機能の解明は重要な研究課題といえる。

  フッ素化合物において,長鎖のフルオロアルキル基[CF3(CF2)n-; n >2RF-]を有する低分子化合物は、フッ素原子の分極率の低さより分子間相互作用が小さく、液体においては表面張力が低く揮発しやすく、固体においては融点が低く昇華しやすい。従って、長鎖のフルオロアルキル基以外に、カルボキシル基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)さらにはエチレンオキシド(-CH2CH2O-)等の親水性基を有するフッ素系低分子界面活性剤は水溶性を示し、対応する長鎖のアルキル基を有する界面活性剤に比べ高い界面活性を示すことから工業的な応用が幅広くなされている[3]

  一方、高分子界面活性剤は低分子界面活性剤に比べ乳化力が高く、さらには分散能や凝集力に優れ毒性が少ないものが多いため注目されている[4]。しかしながら、低分子界面活性剤に比べ表面張力、界面張力の低下能は低く、ミセルに相当する分子集合体を形成し難い[5]。このため、これら高分子界面活性剤に長鎖のフルオロアルキル基を導入させることは、フッ素の優れた機能を付与させる点から興味深い。実際、以下のScheme 1に示すように、長鎖のフルオロアルキル基(RF-)が高分子主鎖にエステル結合を介してランダムに導入された高分子界面活性剤(a)、フルオロアルキル基がブロック的に導入された高分子界面活性剤(b)、さらにはフルオロアルキル基が高分子主鎖の両末端に直接炭素−炭素結合により導入された高分子界面活性剤(c)等が知られている。例えば、Laschewskyらはペルフルオロアルキル基が高分子界面活性剤中にランダムに導入された高分子界面活性剤の報告をしているが、ペルフルオロアルキル基がランダムに導入されているためペルフルオロアルキル基同士が互いに絡み合い、フッ素の優れた界面特性を示しにくい傾向にある[6]。ペルフルオロアルキル基が高分子主鎖にブロック的に導入された高分子界面活性剤においても、ランダムに導入された高分子界面活性剤に比べ、表面張力低下能は高まるものの、フッ素系低分子界面活性剤と同等レベルの界面特性は示し難い[7]。従って、フッ素の優れた機能を発現させるためには、フルオロアルキル基を分子内に制御された形で、すなわち特異的に導入させる必要がある。

 


  このような観点から我々は、1992年にScheme 1(c)に示される高分子主鎖の両末端のみにフルオロアルキル基が直接炭素−炭素結合により導入された高分子界面活性剤の合成に初めて成功した[8]。このフルオロアルキル基が末端に導入された高分子界面活性剤は、低分子フッ素系高分子界面活性剤と同等の界面特性を示し、さらに興味深いことに、水溶液もしくは有機溶媒中においてナノレベルの分子集合体を形成することを見いだした[9]。ナノレベルで構築される新しいフッ素系分子集合体は種々の興味深い特性を示すことができる。例えば、フルオロアルキル基含有アクリル酸−トリメチルビニルシランコオリゴマーが形成する分子集合体[Fig.1参照][10] をホスト場とすることによりHIV-1ウイルスをゲスト分子として特異的に認識し、吸着阻害効果により高選択的な抗HIV-1活性を示す[Fig. 2参照] [11]


 

 

 

 

  

    一般に、フッ素化合物は電気陰性度の高いフッ素原子を有しているため、分子間相互作用が低く、液体においては対応する炭化水素化合物より沸点が低く、固体においては昇華性を示す化合物が多い。しかしながら、このようにフルオロアルキル基が末端のみに導入された高分子化合物は末端に導入されたフルオロアルキルセグメントが互いに反発するのではなく、逆に凝集しやすい性質を示す。このようなフッ素の凝集作用を活かすことにより、これらフルオロアルキル基含有化合物は従来のフッ素化合物には見られない分子集合体形成等の数多くの極めて興味深い性質を示す。しかしながら、これらフッ素系分子集合体形成は環境の変化に順応して集合体のサイズが変化し、ゲスト分子の取り込み能が極めて低下するケースが見られる。従って、ゲスト分子をより効率よく取り込ませるためにも、さらには新しいフッ素系機能性材料の創製の観点から、フッ素系ナノ粒子を調製することは極めて興味深い。

  そこで、今回我々の研究室で見いだされたフッ素系高分子ナノ粒子の調製とその応用展開、特に洗剤を使用せず水洗いのみで油汚れを除去できるフッ素系高分子コーティング膜の開発について紹介する。

 

2.フルオロアルキル基含有オリゴマーナノ粒子の調製

  フルオロアルキル基含有オリゴマーナノ粒子の調製は、以下に示す方法により行った。すなわち,シリ

    カナノ粒子存在下におけるフルオロアルキル基含有オリゴマーとテトラエトキシシラン[Si(OEt)4]との反応によ

    る含フッオリゴマーナノ粒子の調製についてそれぞれ検討を行った(Scheme 2参照)


    

  その結果、それぞれの反応により数10 ナノレベルのフルオロアルキル基含有オリゴマー微粒子が調整でき  

    た。得られた含フッ素オリゴマーナノ粒子のメタノール中への再分散性は高く、以下の表に示すようナノ粒

    子粉末を一度単離し、真空乾燥後メタノール中へ再分散させても粒子サイズはほとんど変化せず再分散性が高

    いことがわかった。

 


         3.種々の基質を含有させたフッ素系高分子ナノ粒子の調製

  Scheme 2に示したシリカナノ粒子を用いたフッ素系高分子ナノ粒子の調製において、種々の基質を

添加させることにより、フッ素系ナノ粒子中にこれら基質を効率よく取り込むことができる。例えば

以下のScheme 3に示すように、シリカナノ粒子存在下におけるフルオロアルキル基含有アクリル酸オリ

ゴマーとTEOSとの反応において、2,2,6,6-tetramethylpiperidinyloxy, free radical (TEMPO ラジカル)および

その誘導体を添加させることにより、フッ素系ナノ粒子(粒子サイズ:27 ~ 82 nm)中にこれらTEMPO


ジカルを効率よく取り込むことができた。実際、得られたフッ素系ナノ粒子をTEMPOラジカルに対して

高い溶解性を示す溶媒で洗浄を行い、遠心分離、次いで真空乾燥を行いフッ素の元素分析およびESRの測定

を行ったところ、以下のTables 2, 3に示すように含フッ素オリゴマーさらにはTEMPOラジカル誘導体が

確実にナノ粒子中に取り込められていることが明らかとなった。

 


     


     本手法は、安定なラジカル以外に他の基質をも容易に取り込むことができる。例えば、以下のScheme 4

   示すイオン液体をもナノ粒子中に取り込むことができた。


 

 

 

 

 

 

 


  このように、フルオロアルキル基含有オリゴマーナノ粒子は数十ナノレベルの微粒子であり、さらに種々の溶媒に対しても分散安定性が高いことがわかった。これは実際以下のFig. 3に示した写真からも、フッ素系溶媒(AK-225)、水および有機溶媒に分散させたフッ素系ナノ粒子の分散安定性が高いことが理解できる。本研究に示されたフッ素系高分子ナノ粒子は、フッ素系溶媒に対しても分散安定性が高い点は興味深い。これは、フッ素系高分子ナノ粒子はフッ素系溶媒中におけるコア−コロナ型ナノスフェアを形成し、ナノ粒子中のフルオロアルキルセグメントがフッ素系溶媒中において粒子の合一を静電的な反発により防ぐためと考えられる。有機溶媒(1,2-ジクロロエタン)中に分散させたフッ素系ナノ粒子(平均粒子サイズ:81 nm)溶液はFig. 3(C)に示すように白濁せず、透明であり分散性が高い。この透明な溶液を遠心分離させることによりフッ素系ナノ粒子が沈降し分離できる。さらにこのナノ粒子を同じ溶媒中に再分散させても粒子サイズは変化せず再分散性が高い点は極めて興味深い。この透明性が高い理由は本ナノ粒子の有機性が高く、さらにはナノ粒子の屈折率と溶媒の屈折率とが類似することによると考えられる。

 

4.フッ素系高分子ナノ粒子による有機高分子材料の表面改質への応用

  我々は今までに、フルオロアルキル基が末端に導入されたオリゴマー類はPMMA(ポリメチルメタクリレート), PSt(ポリスチレン)等の汎用の有機高分子材料表面への改質剤として有用であり、フッ素に起因した撥油性等の高い界面活性な性質を高分子材料表面に効率よく発現できることを報告してきた[2-d], [12]。従って,先に示した一連のフッ素系高分子ナノ粒子による高分子材料表面の改質は興味深い。Scheme 3において調製されたフッ素系高分子ナノ粒子1,2-ジクロロエタン溶液中にPMMAを添加させ、PMMA改質膜を調製した。


  Table 4に示すように、得られたフィルムの表面および裏面のドデカンの接触角測定を行ったところ、表面の接触角の値が19 ~ 20度となりフッ素に起因した高い撥油性を示すのに対し、裏面においては0度であることから、以下のFig. 4に示すように、フッ素系ナノ粒子は効率よく膜表面に分散していることが


示唆される。すなわち、フッ素系ナノ粒子中に取り込められたTEMPOラジカルも効率よく膜表面に分散しているものと推定されることから、今後このフッ素系ナノ粒子を用いた種々の材料表面への表面改質は新しい表面改質法として興味深い。

 

5.フッ素系高分子ナノ粒子を用いたガラスの表面改質 高い洗浄性を示す改質ガラスの開発

  フルオロアルキル基含有ビニルトリメトキシシランオリゴマー[RF-(CH2CHSi(OMe)3)n-RF: RF = fluoroalkyl group]はガラスの表面処理剤として有用であり、ガラス表面にフッ素に起因した高い撥油性さらには撥水性を付与させることができる[13] 一方、これらオリゴマー型シランカップリング剤に、親水性のモルホリノ基を導入させたフルオロアルキル基含有ビニルトリメトキシシラン−アクリロイルモルホリンコオリゴマーは、ガラス表面にフッ素に起因した高い防汚性以外に、モルホリノ基に起因した親水性をも示すことができる[14]。特に、ガラス表面の環境の変化に応じて以下のFig. 5に示すように、防汚性さら

 

 

 


には親水性を示す点は興味深い[14] しかしながら、このオリゴメリックなフッ素系シランカップリング剤は、トリメトキシシリル基を有するためガラス基盤との密着性は比較的高いものの加水分解を受けやすく、保存安定性に問題がある。そこで、ガラス表面に防汚さらには親水性を示す新しいフッ素系高分子表面処理剤として、先に示したフルオロアルキル基含有アクリル酸オリゴマーナノ粒子に注目し、フッ素系ナノ粒子によるガラスの表面改質について検討を行った。


  フルオロアルキル基含有オリゴマーナノ粒子は、以下のスキームに示すように、フルオロアルキル基含有アクリル酸オリゴマーをシリカナノ粒子存在下、テトラエトキシシランと反応させることに均一な分散性の高いシリカナノ粒子として調製できた。なお、ガラスの表面改質はこれらシリカナノ粒子溶液のゾル溶液中にガラスをディプさせ改質を行った。

  本研究に示されたフルオロアルキル基含有アクリル酸オリゴマーシリカナノ粒子により改質されたガラスプレート表面に付着した油滴(大豆油)の、水によるリリース性について検討を行った。 すなわち油滴が付着したガラスプレートを水槽に浸漬させ(下記の右サイドの水槽を参照)、油滴の接触角が180度になり水槽中にリリースするのに要する時間の測定を行った。

  

 

 

 

 


 

 


  その結果、Scheme 5に示された反応においてシリカナノ粒子を用いない系により改質されたガラス表面の油滴は、水槽中に改質ガラスを浸漬させ10分間経過しても改質ガラス表面からリリースしないことがわかった。すなわちこの改質膜では、ガラス表面に付着した油汚れを水洗浄だけでは除去できないことを示している。

 

  一方,Scheme 5に示された反応においてナノシリカを用い調製されたフッ素系ナノ粒子により改質されたガラス表面の油滴は、以下の写真に示すように水槽中に浸


漬させた後、25秒程度で油滴が水槽中にリリースすることが確認された。特に興味深いことに、温水洗浄機で600回以上洗浄を行った後でも油滴が、水槽中に浸漬されたガラス基盤から20秒程度で容易にリリースすることが確認された(油汚れのガラス基盤からのリリースに関する動画は添付ファイルを参照されたい)。この結果は、フッ素系ナノ粒子はその粒子がナノレベルの微粒子であり、微粒子中に存在するシラノール残基とガラス基盤上のシラノール基との結合によりガラス基盤との密着性を高め、さらにフッ素系ナノ粒子中のシリカナノ粒子により膜の強度が高められたためと考えられる。すなわち、以下のFig. 6 に示すようにガラス基盤上にコーティングされたフッ素系高分子ナノ粒子表面に存在するフルオロアルキル基により、油汚れに対し高い防汚性を発現し、油汚れの付着しにくい膜を形成する。


  一方、ガラス基盤上の環境が空気雰囲気下から水雰囲気下に変化すると、Fig. 7に示すようにフッ素系高分子ナノ粒子中に存在する親水性を示すカルボキシル基がフリップ−フロップ運動によりガラス基盤表面に現れ、逆に高い撥水性を示すフルオロアルキル基がガラス基盤の方へ潜り込み、カルボキシル基に起因した高い親水性、すなわちガラス基盤に付着した油汚れを高い親水性のためガラス基盤から容易にリリースできるものと考えられる。

 


 

従って、本研究により開発されたフッ素系高分子ナノ粒子改質膜は油汚れに対し洗浄性の極めて高い改質膜と言える。

 

 

6.おわりに

  フルオロアルキル基が末端に導入されたオリゴマー類は、水さらには汎用の有機溶媒中において末端に導入されたフルオロアルキル基同士の凝集効果が相乗的に作用し、ナノレベルで自己組織化した分子集合体を形成する。この自己組織化したフッ素系分子集合体とテトラエトキシシランとの反応をシリカナノ粒子存在下において行うことにより、数十ナノレベルの分散性の高いフルオロアルキル基含有オリゴマーナノ粒子が調製できる。このフッ素系ナノ粒子はガラス表面へ防汚・親水機能を付与させることができ、ガラス表面に付着した油汚れを水に接触させるだけで容易に除去できることから、油汚れ除去に洗剤を必要としない新しいガラス材料としての実用化が期待される。さらに、シリカナノ粒子を用いたフルオロアルキル基含有オリゴマーとテトラエトキシシランとの反応において、種々の基質を添加させることにより調製されたフッ素系ナノ粒子中にこれら基質を容易に取り込むことも可能となった。これらの結果は、今後種々の分野へのフッ素系高分子ナノ粒子の応用展開をより確実なものとさせる知見であり、今後の応用研究に期待がもてる。

 

[謝辞]

  本研究における「高い洗浄性を有するガラス質表面処理剤に関する研究」は、東洋佐々木ガラス(株)との共同研究によるものである。また、フッ素系ナノ粒子の調製に関する研究は本研究室に在籍している鳴海民和学士により行われたものである。

   最後に、ESR測定を行って頂いた奈良教育大学 梶原 篤助教授に感謝申し上げます。

 

 

 

文献

[1] 平野二郎、沢田英夫、中山雅陽,「含フッ素有機化合物−その合成と応用」,技術情報協会(1991).

[2]a) 沢田英夫、川瀬徳三、有機合成化学協会誌、57, 291 (1999);

   b)沢田英夫、川瀬徳三、高分子論文集、58, 147 (2001);

   c) 沢田英夫、川瀬徳三、高分子論文集、58, 255 (2001);

   d) H. Sawada, J. Fluorine Chem., 121, 111 (2003).

[3]沢田英夫(分担執筆)、油化学便覧第4版、丸善、2001年、p526

[4] 谷崎義治、油化学、34, 973 (1985).

[5] P. Anton, O. Koberle, and A. Laschewsky, Makromol. Chem., 194, 1 (1993).

[6] D. Cochin, P. Hendlinger, and A. Laschewsky, Colloid Polym. Sci., 273, 1138 (1995). 

 [7]a) H. Sawada, E. Sumino et al., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 143 (1994);

b) H. Sawada, E. Sumino et al., J. Fluorine Chem., 74, 21 (1995).

[8]H. Sawada et al., J. Chem. Soc., Chem. Commun., 537 (1992).

 [9]a) H. Sawada, Y. Ikematsu et al., Chem. Commun., 179 (1996);

  b) H. Sawada, K. Ikeno et al., Macromolecules, 35, 4306 (2002).

[10]a) H. Sawada, N. Itoh et al., Langmuir, 10, 994 (1994);

  b) J. Nakagawa, H. Sawada, M. Abe et al., Langmuir, 14, 2055 (1998);

 c) J. Nakagawa, H. Sawada, M. Abe et al., Langmuir, 14, 2061 (1998).

[11]H. Sawada, K. Tanba, N. Itoh, C. Hosoi, M. Baba et al., J. Fluorine Chem., 77, 51 (1996).

[12]H. Sawada, K. Yanagida et al., Eur. Polym. J., 37, 1433 (2001).

[13] H. Sawada and M. Nakayama, J. Chem. Soc., Chem. Commun., 677 (1991)

[14]H. Sawada, Y. Ikematsu et al., Langmuir, 12, 3529 (1996).