弘前大学理工学部

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知のとびら - 経歴とQ&A
物質創成化学科 准教授 喜多 昭一(きた・しょういち)
物質創成化学科HPへ
http://www.st.hirosaki-u.ac.jp/~chem/
1974年 静岡大学理学部化学科卒業
1979年 東北大学大学院理学研究科博士課程単位取得退学
1981年 弘前大学理学部助手
1992年 弘前大学理学部助教授
1997年 弘前大学理工学部助教授
 研究内容を教えてください。
 私の研究室では、Ru(ルテニウム)やRe(レニウム)、Cr(クロム)などの遷移金属錯体の光励起状態の構造および反応に関する研究、さらに、これらの遷移金属をいくつか結合した多核金属錯体(図1)を合成し、錯体ユニット間で電子や励起エネルギーの移動する効率や速さから機構(しくみ)を調べる研究をしています。遷移錯体は有機分子と金属イオンの複合系であることから、光のエネルギーを吸収し興味深い性質を示します。例えば、熱を加えたのでは起こらない反応が光では起きたり、酸化還元力が光励起状態では強くなったりします。光エネルギーを有用な反応に利用しようとすると、吸収した光のエネルギー(あるいは電子)を効率よく反応を起こさせる場所まで運ばなければなりません。実際、植物の光合成ではそのようなことが行われています。私の研究はそのような応用の基礎研究ともなるものです。また、このような金属錯体を触媒として光のエネルギーにより二酸化炭素を還元する反応の機構を明らかにする研究も進めています。

図1 光エネルギー移動を起こすRe(I)-Ru(II)複核錯体
 この研究を始めたきっかけは何ですか?
 有機物質が光で反応することは古くから知られており、色素や染料が褪色するのもその一つです。これに対し、金属の化合物である顔料は光などの環境に耐久性が有ります。言い換えると反応しにくいと言うことです。しかし、この分野の研究を始めた頃、いくつかの金属錯体は光に大変敏感で反応することが知られました。Cr(III)錯体などで効率の良い金属錯体の光配位子置換反応が見つけられ、また、Ru錯体などで酸化還元反応(光電子移動)なども研究が進んでいました。物質は可視光を吸収すると“着色”しますが、光を吸収するだけでなく“発光”もします。これも従来、有機物質が得意とすると考えられてきたところですが、金属錯体の中にも強く発光する錯体が見つかってきました。しかも、有機物質の発光の多くが蛍光なのに対し、遷移金属物質ではリン光と呼ばれる発光が見られます。このように金属錯体が光に活性な性質を持つことは驚きでした。この分野は今後大きな発展が期待できると考えました。
 この研究をどういった分野で活用していきたいですか?
 私のところでは「応用」まで行っていませんが、上記で「発光」と「反応」を取り上げましたが、「発光」に関しては、金属錯体の熱や光に対する耐久性とリン光発光性であることからエレクトロルミネッセンス(EL)材料として注目されています。また、「反応」に関しては、光触媒物質として、ルテニウムやレニウムなどの金属錯体が注目されています。
 この研究のおもしろいところは何ですか?
 光を当てて物質の「励起状態」をつくると、元の物質と組成などは変わらないのに、元の「基底状態」と物質の性質が全く変わる、別の物と言っていいくらい変わります。また、物質の励起状態は1つではないので、励起状態ごとに性質が異なります。このように光により様々に物質の特性が変わることです。
 研究をしていて問題を感じることはありますか?どう乗り越えますか?
 現在の光化学では励起状態を調べるには「極短パルスレーザー装置」など先端的な装置が必須です。残念ながら私のところではこれらの高価な装置を揃えることはできません。しかし、研究対象である新たな金属錯体を合成するにはそれほど多くの資金を必要としないので、他ではやっていないような新奇な錯体を合成し、その光化学的性質を調べる方向で研究しています。
 先生ご自身は大学時代をどう過ごしましたか?
 私は団塊後期の世代で、学園紛争の中で大学時代を過ごしました。授業等がたびたび中止されたり(中止したり)しましたが、一方で、学生が授業やゼミなどの一方的「受け手」ではなく、自分たちで興味あることを見つけ、勉強することを学んだと思います。
 授業はどういったところに気を付けながら進めていますか?
 授業は「キャッチボール」ですから、投げ手が下手でも、受け手の気持ちが乗らなくても、うまくいきません。また、大学に限らず授業は勉強の一部で、講義を聴いただけで内容が理解できるほど甘くはありません。とりわけ、「理論系」の科目は理論の組み立てが、話しを聞いただけで解るとは思われません。学生一人一人が課題をもって取り組めるように考えています。
 卒業研究に関して学生にはどうアドバイスしていますか?
 3年生までの学生実験では、実験書に書かれている通りに実験をやれば(手順を間違えなければ)、所期の結果が得られます。しかし、卒業研究では、誰もやっていない実験をやることになるわけですから、準備は勿論、実験経過の観察や記録をこまめに行い、うまくいかなかった実験からも「何故うまくいかなかったのか」得るところが有ることを注意しています。
 物質創成化学科へ入学を希望されている皆様へ一言お願いします。
 受験生や在学生に入学の動機を聞くと「社会に役に立つ材料を作りたい」「環境に優しい物質を作りたい」という答えをよく聞きます。これらは大切なことで、大いにそのためにがんばってもらいたいのですが、そのためにも物質の成り立ちや仕組みを知ることに興味を持ってもらいたいと思います。ともすると、途中の経過は置いておいて、結果(答)だけを知りたがる傾向があるのではないかと思います。

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